ゲスト講義レポート:ソニーの先端技術とVRエンタテインメント #青学VR

ソニー株式会社の戸村朝子さんと株式会社ソニー・インタラクティブ・エンタテインメント(SIE)の秋山賢成さん

12月12日(木)5限に、ソニー株式会社の戸村朝子さんと株式会社ソニー・インタラクティブ・エンタテインメント(SIE)の秋山賢成さんが、先端技術を用いた映像や音響技術、VRコンテンツについて、青山キャンパスでゲスト講義してくださいました。とても盛りだくさんの内容ですべてをお伝えしきれませんが、印象に残った内容をレポートしたいと思います。

1. ソニーってどんな会社なの?

前半はまず戸村さんからソニーという会社について教えていただきました。ソニー株式会社は1946年、東京通信工業株式会社として創業し、当初はオーディオデバイスを中心に製造していたそうです。日本初のテープレコーダーやトランジスタラジオ、外出先でも音楽が聞けるウォークマンを開発するなど、音響の分野で数多くの成功を収めて行きました。会社が大きくなるにつれてさまざまな分野に進出し、現在では音楽、映画、ゲーム、金融サービスなど幅広い分野で事業を世界各地域で展開しているそうです。こうした企業グループの礎を築いた創業者の盛田昭夫や井深大の名前は海外で話題にのぼることもあるので「覚えておくといいですよ」とのことでした。

2. Crystal LEDディスプレイを活用した映像体験

戸村さんが関わられたプロジェクトとしては、ソニーの独自技術であるCrystal LEDディスプレイシステムを用いた映像体験のプロデュースがあります。微細なLEDを使ったこのディスプレイは、今までできなかった艶やかな色調を大画面で滑らかな動きとともに表現できます。また正面から見たときだけでなく、180度どの角度にいる人から見ても鮮明な映像を届けるという特徴もあります。

ソニー株式会社 コーポレートテクノロジー戦略部門
テクノロジーアライアンス部 コンテンツ開発課統括課長 戸村 朝子さん
ソニー株式会社 コーポレートテクノロジー戦略部門
テクノロジーアライアンス部 コンテンツ開発課統括課長 戸村 朝子さん

このディスプレイの魅力をわかりやすく伝えるために、戸村さんは映像制作会社の白組と協力して『Evolution of Imagery』をプロデュースしました。これは8K×2Kという高解像度の巨大なCrystal LEDディスプレイで踊るCGのキャラクターと、ディスプレイの前で踊る生身のダンサーがあたかも一緒になって踊っているように見えるライブパフォーマンス作品です。映像の制作には、通常の映像制作とは比べ物にならないくらいの大量のデータを扱う必要があり、ちょっとした修正を行うだけでも何時間も画像処理を行う必要があったそうです。 そうした大変な画像処理を経て、海外のイベントで実演されたパフォーマンスの記録映像を見せてもらいましたが、CGのキャラクターとダンサーが一体となっていて、どちらも実際にそこで踊っているように感じられました。実際にライブで体験したら、もっとすごいのではないかと思います!

3. 新しい音響体験、Sonic Surf VRとは

続いて戸村さんはSonic Surf VR(SSVR)という空間音響技術を用いたプロジェクトについてお話いただきました。通常のステレオスピーカーは左右の音がバランスよく聞こえる位置は一部の範囲に限られてしまいますが、この技術を使うと部屋のどこにいても音の塊が自分の周囲を自在に動かしたり、空間のなかを移動するにつれて聞こえる音を変化させたり、不思議な音の体験を提供することが可能になります。

空間のなかで音を自在に操ることができるSSVRはスピーカーというよりも、新しい楽器のようなものだと、戸村さんは言います。新しい楽器には、演奏者が必要ということで、アーティストに依頼してSSVRを奏でる作品をつくりました。こうした作品の制作には、高い問題意識や未来へのビジョンを持つアーティストと、アーティストの世界観を実装し、技術的な発展を担うるエンジニア、そして両者をつないでチームをまとめあげるプロデューサーの3者の協働(集団的創造性の発揮)が不可欠なのだそうです。これはSSVRに限らず、先端技術のプロデュース全般に当てはまるのではないかと感じました。

SSVRが実際にどんなものなのかは、体験してもらうのが一番です。これまでに東京と神戸でTouch That Soundというイベントが開催されていますが、まだ、体験していない人にもチャンスがあります。直近ではGinza Sony Parkで12月14日(土)〜1月13日(月)まで開催されているAffinity in Autonomy <共生するロボティクス>展で体験することができるそうなので、私も行ってこようと思っています。とても不思議な体験で夢中になれると思うので、皆さんも、ぜひ、足を運んでみませんか。

4. VRが可能にした新しいエンタテインメント

後半はSIEの秋山さんにバーチャル・リアリティ(VR)の歴史やコンテンツ制作、教育への可能性についてお話いただきました。SIEはPlayStation®などのゲーム機やゲームソフトの開発、製造、販売を行うソニーグループの企業です。PlayStation®は史上最も多く販売された家庭用ゲームコンソールとしてギネスブックに登録されるなど、世界的な人気を集めています。PlayStation®4(PS4)でVRでも遊べるようになり、PlayStation®VR(PS VR)は2019年3月3日時点で420万台を販売した、世界で最も売れている中の一つのVRプラットフォームとなっています。

株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメント
東京グローバルデベロッパテクノロジー部 次長 秋山 賢成さん
株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメント
東京グローバルデベロッパテクノロジー部 次長 秋山 賢成さん

PS VRを活用したさまざまな事例を紹介してもらいましたが、なかでも特に興味深いと思ったのはアニメやゲームの世界に入っていける作品です。TVアニメ化された人気ゲーム『ダンガンロンパ』のVR作品(『サイバーダンガンロンパVR 学級裁判』)では、中心となる学級裁判のシーンを主人公の視点で体験できるということです。この作品を知っている人なら、あの学級裁判のスリルや緊張感を体験できるのはとても魅力的ではないでしょうか。西尾維新氏による<物語>シリーズの劇場版作品公開のプロモーションとして制作された『傷物語VR』も物語のなかに入っていける作品です。この作品の重要なキャラクターである吸血鬼(キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード)と一緒に映画館で映画『傷物語』を振り返るという作品なのですが、二人きりでデートをしているような感覚を体験できるということで、とても気になりました。

サイバーダンガンロンパVR 学級裁判 ©Spike Chunsoft Co., Ltd. All Rights Reserved.
©西尾維新/講談社・アニプレックス・シャフト

5. エンタテインメント以外の可能性

こうしたゲームやアニメの世界観をVRで体験できるようにした作品のほかにも、シューティングゲームやVRライブをはじめさまざまなVRエンタテインメントがあり、これまでない刺激的な体験ができるのですが、VRのすごさはエンタテインメントだけに留まりません。

特に医療手術など実際に行うには危険が伴う訓練は、VRの応用事例として非常に期待されているそうです。教育や建築などの実用的な分野でも大きな可能性があります。昨年行われた中高生を対象としたVRゲームの開発ワークショップ(VR CAMP with PlayStation®VR in WASEDA)では、全国から参加した生徒たちがオリジナルのクイズゲームを開発し、最後につくったクイズを保護者に楽しんでもらったそうです。秋山さん曰く、この最後につくったゲームを誰かに楽しんでもらうというのがとても大切で、自分がつくりたいものをつくるだけでなく、楽しんでくれる誰かのためを想ってつくるというのは、VRかそうでないかに限らず、すべてのエンタテインメントに共通なのだそうです。こうして行われたワークショップは参加者や保護者の100%が満足と回答するほど満足度が高かったそうです。

6. Sense of Presence、圧倒的な実在感を追求するために

最後にVRコンテンツをつくっていく上で大切なことについてお話してくださいました。 秋山さんたちがVRで目指すのは没入感を超える実在感(Sense of Presence)を与えることです。実在感というのは自分がその世界にいると無意識に感じられる状態を指します。VRを体験するとき、私たちはゴーグル(VRヘッドマウントディスプレイ、VR HMD)をつけますが、つけていることを忘れるくらいVRの世界に夢中になれるのが実在感の高いコンテンツです。 実在感はちょっとした違和感が生じるだけでガラスのように壊れてしまうため、実在感を高めるためにいろいろな工夫が行われているそうです。たとえば、VRでは自分の身体は動かないのに視界だけが移動することがしばしばありますが、こうした状態は乗り物酔いのようなVR酔いを引き起こすことがあり、VR酔いを起こさないよう、急激にカメラを移動しないように気をつける必要があります。また、コンテンツのなかのキャラクターと親密な関係を演出するためには、対象とユーザーとの距離を密接距離と呼ばれる45cm以内に設定するようにしたり、ユーザーの行動に反応してキャラクターが視線を合わせるようにしたり、VRコンテンツ制作のさまざまなノウハウを教えていただきました。また、枠に囲まれて見る範囲が限定される2D映像と違って、VRは3Dで360度どこを見るかはユーザー次第です。そのため、ユーザーがどこを見ても対応できるように、魅力を感じるポイントを2つ以上織り込むようにしているそうです。こういった細やかな工夫の積み重ねが、没入感を超える実在感を生み出しているのです。

7. VRが一般化した未来

最後にVRが浸透した未来についてお話いただきました。VRの未来において大切なのは、第1に「便利さ」です。いまはVRを体験するのにゴーグルを着ける必要がありますが、それが苦にならないほどの便利さをユーザーに提供していく必要があります。次に「直感的な感動」です。第三者ではなく“自分ごと”として体験できるコンテンツであるかどうか。「便利さ」や「直観的な感動」が体験できれば、多く人がゴーグルを着けることを気にせず、VRを利用するようになります。そしてVRが浸透した社会では、VRという言葉は社会に溶けて消えてしまうだろうと秋山さんは言います。テレビが普及した社会では、テレビというメディアを意識しないで、テレビドラマなら直接ドラマのタイトルを挙げて感想を話しています。スマートフォンが出たばかりのときはアプリのことをいちいち『スマホのアプリ』と表現することが多かったのが、今ではただアプリとしか呼ばなくなりました。VRが一般化したら同じようなことが起きるに違いありません。

8. まとめ

授業が90分しかないことが悔やまれるほど、戸村さんと秋山さんからは密度が濃く貴重なお話をうかがうことができました。ビジネスの最前線でお仕事をされているお二人のお話から、他の学生もとても刺激を受けていたようです。私もお二人のゲスト講義をお聞きして、改めてVRをはじめとした新しいエンタテインメントの魅力や可能性を感じました。このお話を今後の大学での勉強や終活に活かしていきたいと強く思いました。でも、その前に『傷物語VR』が気になってしょうがないので、まずはPS VRで実際に体験してみようと思います! みなさんも、ぜひ、体験してみください。(三枝 知史)

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